司法試験黙示録 @gouyokunakaze

3回目受験生。再現答案とか適当に書いてる。ツイッター→@gouyokunakaze

タグ:特許法

サボり気味のブログだけども、思い立ったので。

テーマは相場観。これって、「実際に採点された経験のある人」または「再現性の高い答案とその成績をチェックした人」にしかなかなかわからないよね。俺は、とりあえずは2回採点された経験があるわけで(これ以上増えたくはないがな)。他にも、友達の再現見せてもらったりもしてた。この時期、みんな不安を抱えてるだろうから、安定剤になるかはわからなけいけど、実際にこう書いたらこうだったって体験談を綴ることにする。

評価の前提知識さらっと書いてくけど、知ってる人は読み飛ばしてOK。
A 〜1000位
B 〜1500位
C 〜2000位
D 〜2500位
E 〜3000位
F 3001位〜  というのが例年どおり。

ただ、これが今年もそうとは限らん。例年そうなだけってのは一応、注意。今年の短答通過者は3300人とかだよね、確か。だからFは一番少ないわけで。むしろ上30%はAってことにもなるから、昔と今とではAの価値は同じではないよね。。。オールCで合格っていうのも聞いたことあるが、現在の受験者数では妥当しないと思われる。

というわけで、予備のそれとは全然違うからね、予備勢の相場観はここでズレが出てしまう。それでも予備組は高い合格率もデータとしてあるわけだし、やっぱり自信は持ってていいと思うよ。

さて、具体的な話に。とりあえず選択(知財)だけ書いて、あとは別記事で書こうかな、長くなるかもしれないし。長いの読むの嫌いでしょ、みんな。

なお、選択科目はAとかBとか書いていないので、点数からだいたい「◯相当」みたいな感じになる。

【1回目】・・・57点(小数点以下切り下げ)(A相当)
 詳しくは問題見てほしいけど、いわゆる大きな論点は、特許に関しては拾いきれた(先使用権とかね)。まあ比較的書いてほしいことはわかりやすくはあったしね。当てはめは無難にって感じで、ホームラン答案ではない。ミスってほどのものはなかった。それに、間接侵害の設問が島並先生の基本書のコラムかなんかの問題意識まんまでさ、これ知ってるぞ!!って気持ちで書けたのはでかい。←オススメ
 ただ、著作権法では、設問4の請求の根拠条文が書けなかった。つまり、請求からミスった。まあ若干マイナーなやつだったってのはあるけど。ほぼ0点と見ていい。書けりゃ60点くらいまでいった可能性はある。
 一回目だったしどのくらい点数もらえるかはわからなかったけど、真ん中よりは上だろうなとは思ってた。蓋開けたら確か知財選択者526人のうち、81位。ただ、母数は短答通過してない人も含んでるっぽいから採点されたのはもう少し少ないと思う。短答で3割減るって考えたらだいたい350人前後か。それでも上位30%には入ってるし、「二桁順位いったぜ!いえーい」っていう気持ちになったのは覚えてる。
【2回目】・・・46点(同じく切り下げ)(D〜C相当)
 特許法でね、お亡くなりになられたんですよね。設問4つあるうち、ちゃんと書けたのは設問1だけ。あとはもう作文レベル。趣旨からも普通に外れてたし、行訴法も引けてない。終わったーって試験中に思った。F答案やなあって感じ。まあ、みんな驚いたであろう問題だったから、できた人は多くはないだろうと思ったけども。
 それでも、著作権法で少し盛り返せていたのかはわからない。一部自信のある設問も一つはあったかな、でもこれまた最後の設問で抗弁として何を書くべきかわからず、なんか適当なこと書いたのだけ覚えてる。結局何だったのか、趣旨覚えてねえ。
 2回目ということもあって、思ってたとおりくらいの点数ではあった。50いくことはないだろうなあ、でも、あの特許の難しさはみんな一緒だから総合でFレベルまでは落ちないだろうなあ、みたいな感じ。

【3回目】・・・予想50〜60点←ちょっと勝負に出た
 2回目のような特許での爆死はない。かといって1回目のようにミスなくできたかと言われると、再度の警告の論点あたりが不確実だし、最後の設問も辰巳のちょろっとした解説見るとなんか違う。。。上手くハマればいいけど、そこに自信はない。
 著作権法は、無難には処理できてると思う。そうすると、総合で50はかたい。あとはどこまで伸びるか。1回目の57まで上がるのかどうか。希望的観測では、特許でも思ったよりちゃんと題意に沿っていて、60点!みたいな感じだが・・・そうは甘くないのだろう。でもほしいなー60点。
 論文の点数って素点の1.75倍じゃない?ってことはさ、40点→70点に対し、60点→105点になる。20点の差が35点分になるわけだからね、これだけでかなり大きい。俺なんか1回目から2回目で20点分下がってるんだもんなあ。まあ、選択科目で点を取ることの重要性については別記事であげるとしよう。

 選択科目は各科目間の調整?をするらしくそのあたりの細かい計算は知らん。知らんが、経験上言えることは、
 ・特許でミスなく論点拾って著作で設問1つあさっての答案で57点が取れた
 ・特許で設問3つあさって、著作で設問1つ△レベルで46点(ただし特許はマイナー分野)

という事実を伝えておきます。知財選択者の再現は見たことないのでそっちには今回は触れません。

発表まで3週間切ったぞ、おい・・・

著作権法に続いて、特許法の科目特性について述べていく。

特許法は・・・正直、ムズイ。著作権法と同様、特許権侵害に対して請求を立てていくあたりは似ている。権利侵害といえるのか(特許法では直接侵害と間接侵害というものがあったり、文言侵害と均等侵害といったものがあったりするのでここを頭で整理できていなければならない)、抗弁は立つのか等。

しかし、実際に問題と解くと、何を書いたらいいのかわかりづらい。著作権法ほど、型が定まっていないのである。

その理由の一つに、特許法がやや学問チックであって、民訴のそれに似ていることがあげられる。想像しているよりかは抽象論の勉強も必要ってイメージ。

また、論点も抽出しにくい。これも著作権法に比べれば、だが。「あれ、勉強したはずなのに解けないぞ?」ってことはよくある。解けないのは心理的にもきつかった。

その他、特許法では民訴、行政法の知識が問われることがある。審決取消訴訟や再審の訴え等がそれであり、過去出題もある。特許権者vs権利侵害者という単純な図式だけではなく、vs特許庁ということもあるということ。ここら辺も整理がついてないと、似たりよったりのどの条文を使うべきかわからなくなるおそれもある。

とまあ、脅しから入ったけれど、これは実際にそう感じたし仕方がない。多分、今解いたらけっこう間違えまくる自信すらある。というわけである程度覚悟して特許法の学習には臨んでほしい。逆に言えば、その分、著作権法の簡単な雰囲気とバランスをとっているのかもしれないし、弁理士という高難易の資格試験があることも、これを裏付けるのかもしれない。

あえて過去問は紹介しません。まあちょっと初学者向けに簡単に解説できる感じではないのでね。自作の答案でよければ、要望があればのっけることも考えてはいる。俺はどっかの事務所が出してる模範档案を参考にしてた。

そんな難しい特許ですが、実務ではメリットあるかと。といっても、特許専門でやるような事務所に入るならって感じらしいが。金回りはいいと聞きました、はい。がっぽり特許訴訟で稼ぎたいんじゃああって人にはいいのかもね。笑

タイトルのとおり、司法試験の選択科目に悩んでいる方へ。あと、著作権法ざっくり知りたい人向け。

予備試験組はそろそろ選択科目を決める頃合いらしいですねー。そして、ロー生も本腰を入れて勉強していきたいところ。そこで、本記事では司法試験の選択科目である知的財産法のうち、著作権法に触れていく。


まず、知的財産法といっても、司法試験では、第1問が特許法、そして、第2問が著作権法と決まっている。ゆえに、商標とかの勉強は不要。特許法については、また別記事で書くので、著作権法に絞って書くことにする。

[①特徴]
あえていえば刑法に近い。刑法は、構成要件→違法性→責任という手順であったり、共犯の書き方なんかもある程度決まってるじゃない?そして、その際には、甲や乙の行為をとらえていく。この感覚が著作権法は結構似てて、答案の型にはめて書きやすいんだよね。詳しくはのちほど。とりあえず書き方での悩みは比較的少ない。

問題文が頭に入ってきやすい。小説を漫画にしたり、映画化したりと身近な感覚のものが多い。民訴みたいに理論武装するようなもんでもないから、抽象論嫌いな人にとってもよい。

判例が、記憶に残りやすい。SMAP事件とか、ときめきメモリアル事件等、これまた身近な事件名が豊富。民法の宇奈月温泉事件とか言われても「は?」って感じの俺にとっては非常にありがたかった。ちなみにときメモ事件は、問題文読んだ瞬間それとわかるレベルで過去問にも出ている。ステータスバグらせるチートカード使って…詳しくはウェブで。

[②形式]
司法試験の問題文は1~2P程度、短い年は1Pで収まるし、令和元年司法試験もそうだった。1Pの上半分に共通する問題文があって、その下に事実を追加した設問が3~4つある感じ。つまり、問題文を読む時間は少なくて済む。他の科目がどうかは知らんが。

[③問題内容と簡単な解説]
例:太郎君は、イギリスを舞台にしたイギリス人同士の恋愛小説Aを書きました。花子さんは、小説の書き方を学ぶため、上記小説をもとに、登場人物の性格設定を同様にし、舞台を日本、主人公を日本人とする小説Bを書きました。そして、花子さんはボランティアで小説Bの無料朗読会をし、朗読しました。太郎さんは、花子さんにどのような請求ができますか?

これは、平成19年のとある設問と同内容。これ解ければ、一問解いたことになる。まずは素人感覚で、花子さんの”どの”行為が著作権を侵害するか考えてみてほしい。

先ほど、刑法に似ているといったが、その簡単なステップはこれ。

1.著作物といえるのか(そして、それは「言語」や「美術」等なんの著作物なのか)
2.著作者は誰か ←2人で作ったりするよ
3.著作権者は誰か ←例えば企業に権利いったりするからね、2と異なる場合がある。
4.被告のどの行為が、原告のどの権利を侵害しているのか ←一つとは限らないよ
5.被告の抗弁はたつのか(あるいは原告の再抗弁) ←条文探そうね
6.侵害が認められる場合、何を請求できるか ←基本は差止めとか不法行為くらいよ


これを一つずつ確認して、論点になるところを厚く書く。刑法と同じってのはそういうこと。

1.Bは著作物かどうか
  ここはさらっと認定。というか著作物性否定すると問題が終わってしまう笑 この場合、「言語」の著作物に当たるとともに、パクッてる要素あるので、「二次的著作物」となる(かなりざっくりした言い方だけど初学者用にあえてパクったと言っています)。

2.Bの著作者は誰か。
  Bを書いたのは花子さんなので、花子さんが著作者

3.Bの著作権者は誰か。 
  花子さんのみならず、太郎さんも、Aはもちろん、Bについても権利を持っていることになります。

4.花子さんのどの行為が、太郎さんのどの権利を侵害しているのか
  (1)まず、パクった行為そのもの、この行為が、太郎さんがもっているAの著作権の一つである、翻案権を侵害。
  (2)そして、Bを朗読した行為は、太郎さんがもっているBの著作権の一つである、口述権を侵害。

5.花子さんの抗弁
  (1)パクった行為については、勉強のためとあるので、私的使用の抗弁を主張。但し、その後になって朗読しちゃってるのでアウト。アウトとなる根拠条文に気が付けるかどうか。
  (2)朗読については、非営利目的による上演等の抗弁を主張。但し、これも43条の文言からすれば、認められない(解釈次第ではいけるのかも…)。

6.何を請求できるか。
 パクリ行為も朗読も、既に終わってるので差止めは不可。不法行為に基づく損賠請求ができると書いて終わり。

かなりざっくり書いたが、だいたいこんなことを最大4P分書くことになる。興味持てそうだなと思ったら知財選択もあり。ただ、著作権法は入りやすいが、特許は逆に理論チック。正直、別物と思った方がいい。また近々特許法についても書くけどね。著作権法はこんな感じです、はい。

ちなみに実務ではどうかと弁護士の先生に聞いたことあるけど、使うケースはあんまりないそう。特許に関しては、特許専門でやってる大手がいくつかあるみたいね。まあ、実務出てすぐ使えるのはやっぱり倒産とか労働なんでしょう。知財は、興味を強く持てた人にお勧めします。勉強量は特に多いとは感じなかったよ!!

再現答案については、こちら

 司法試験の一発目科目、私は3回目でしたが、2回目受験までとは比べものにならない緊張と吐き気。青の封緘シールを破り、問題文を見た段階で「オエっ」と何度もなってしまい、周りに迷惑をかけないようにとハンカチで口を覆うところから私の試験は始まった。ここで5分は消費したろう。

 ぱっと見、設問が3つ、うち設問2が(1)(2)となっているので実質4問。ここは例年と変わらなさそうだし、設問の雰囲気から職務発明やら警告、間接侵害っぽいので、去年みたいなトリッキーな問題ではなさそうだ。

 設問1について。「Xから期待されておらず」との文言から、マホービン判決に従って、職務発明を否定してほしいと感じた。そうすると、Xによる本件特許権は、「受ける権利」なくしてされた設定登録を受けたことになるから、冒認出願となり、その結果、侵害訴訟であるから、特許無効の抗弁として主張すればいいのだろうと。ただ、手薄だったために、各要件の定義が曖昧となってしまい、当てはめ含めイマイチ。
 もっとも、これだけで終わるはずはない。なぜなら、あえて「廃棄請求」がされているからである。そこで想起されたのが、百選80事件。これは方法の発明においては、製造品の販売の差し止めはできないというもの。今回も、方法の発明であるから、これが妥当すると考えた。ただ、問題文における「・・・加工食品・・・旨を表示して販売」という事実がわからない。設問2で使うかもしれないが、これをヒントに例外性を認めてほしいのかと余計なことを考え、謎の規範をでっち上げるとともに、どうみてもその定義には当たらないだろうという当てはめをしてしまった。マイナス評価もやむをえまい。
 その結果、差止請求が棄却な以上、附帯的請求も棄却になるべきという謎の論点を生み出す結果に。この辺りは蛇足どころかマイナス評価だと思う。素直に百選80事件に従って処理すればよかったんでしょうね。

 設問2(1)について。「広く使用されていた」という事実は「公然実施」っぽいから新規性がないと主張するのだろうと。
 ただ、ここで問題が生じる。特許無効の抗弁は、特許権侵害訴訟で主張されるものであるが、本件は、補償金支払請求である。これも侵害訴訟だとすれば、104条の3と123条のコンボが使えることになるが、果たしてそうと言い切れるのかわからなかった。そこで65条5項を読むと、雰囲気的に(会社法とか初見でかっこ書きとか長い条文読むときはだいたい雰囲気で読むよね!?そうだよね!?)無効っぽい内容あれば、請求権は認められないっぽい。そこで、1条・29条1項2号、65条5項辺りをヒントにして(無効の抗弁かどうかわかんないけども)新規性なければ補償金請求は認められないって感じでごまかすことにした。あとは公然実施の定義書いて、当てはめして終わり。ふわふわしながら書いた。

 設問2(2)について。いわゆる再度の警告の論点か、と。ただ、当てはめしてみるとすごく難しい。単純化すれば「aのみ」→補正→「aとb」となったわけだけど、「a」だけ見れば、技術的範囲に属するから再度の警告不要。でも、「a」だけでは拒絶されてるし、Yも広く使用されてたことを知っており、(1)に従えば新規性もない。問題文からしても「b」が重要っぽい。そうすると、「a」だけの警告が意味をなすとは思えなかった、というより、結論ありきでいうと、これはもう1回警告すべきだろ、と考えた。だから、ぐちゃぐちゃな当てはめだけど、結論として再度の警告が必要だから「警告」の要件満たさず請求は棄却とした。もっとも、よく考えたら「警告」なくても、「悪意」ならいけるんだよね・・・この当てはめを落としたのが痛い。今このブログ書きながら痛感してるわ・・・

 設問3について。Mが「にのみ」なのは明らかだからここはその定義は不要だろう、問題はその先にある、と考えた。
 そうすると、101条4号には当たるのに、請求が認められないのではないのはどういう場合か、と読み替えることができる。そうすると、直接侵害がなければ間接侵害も不成立となるのではないか、という司法試験ではおなじみの直接侵害と間接侵害の関係が問題になることはわかる。
 説はいくつかある。もっとも、司法試験委員がほしいのはここの論パではなく、検討してほしいのは直接侵害が成立するか、だと思った。そうすると、直接侵害不要説を取ると、ここで終わってしまうから、答案戦略上、直接侵害必要説で書くべきだと考えた(もっとも、家庭内実施とかじゃない限り、元々必要説で書いているんだけども)。
 ここで、Y→Z→国外への販売されていることから消尽の話が出てくる。消尽してれば、直接侵害はないからである。消尽の定義(必要かどうかはわからん)、趣旨(こっちは必要)を書くことになる。
 もっとも、本件は、方法の発明であり、方法の発明に消尽が適用されるかは問題である。原則は否定だが、間接侵害品ある場合には例外的に認められる。これは平成24年にも出題されているから、過去問やった人はアドバンテージになったと思うし、自分自身も、設問3に関しては他の設問より手応えがある。

 以上がざっくり感想。合ってるかどうかはわかりません。一応の水準をあげるとすれば、
設問1 職務発明該当性と「方法の発明」についての廃棄請求の可否
設問2 (1)新規性がなく補償金請求が認められないとの反論(2)再度の警告の要否
設問3 直接侵害と間接侵害の関係、及び消尽の適用の可否

こんなところじゃないかなあ。参考までに1回目の点数は56点くらい、2回目は46点くらいだった(去年は用意してたのがメリヤスくらいであとはもう悲惨だったと言い訳しておく)。

特許法は著作権法に比べても理論チックで難しい(前者は民訴っぽくて後者は刑法に近いイメージ)。偉そうに勉強のアドバイスするとすれば、特許権侵害訴訟を中心とした要件事実を意識した整理(例えば、原告ならまず文言侵害、ダメなら均等侵害、それでもダメなら直接侵害ない以上、間接侵害を検討するし、消尽は抗弁として被告が主張するみたいな)がオススメですな。あと、今年の問題もそうだけど、「方法の発明」の場合、要検討事項が増えるから、ちゃんとアンテナ張ってないと気が付かないよねえ・・・。

そんな僕の主観的評価は(特許法だけで考えるとしたら)・・・B相当(50点ちょっとくらい)!


感想については、こちら

第1問(特許法)
設問1
 Xは、方法の発明たる本件特許権を有し、その権利を専有するところ(68条本文)、Yが行うY方法は、その技術的範囲に属し(70条1項)、Y製品の製造販売は、その「方法の使用」(2条3項3号)に当たり、「実施」に当たる。ゆえに、Xは、本件特許権侵害を理由として、Yに対し、その製造販売の差止請求(100条1項)、及び、Y製品の廃棄を請求する(同条2項)。

1.これに対し、Yは、本件発明は「職務発明」(35条1項)に当たらず、その特許を受ける権利は、Xではなく甲に帰属するため、本件特許権は、冒認出願に該当するとの特許無効の抗弁を主張する、と考えられる(104条の3第1項・123条1項6号)。
 ア 職務発明該当性につき、まず、甲は、X会社に勤務し、研究開発部門に所属していたため、その指揮命令にあったといえるから「従業者」に当たる。
 イ では、「使用者等の業務範囲」に当たるか。甲は、勤務時間中にX施設でX資材を用いて完成させたのだから、Xのイニシアチブのもと、これを行ったといえるから、「使用者等の業務範囲」に当たる。
 ウ では、「過去または現在の職務」はどうか。会社が多大な金銭出資の危険を負担していることからすれば、発明の完成が予定され、かつ、期待されている場合でなければならない。
 本件では、甲は、上司に反対されて独自に本件発明を完成させており、その完成はXから期待されていなかったのだから、「過去または現在の職務」に当たらない。よって、職務発明の要件を充足しない。
 エ 従って、Xの職務発明にかかわらず、その特許を受ける権利は、Xに帰属せず、甲が特許を受ける権利を有する。よって、Xによる本件特許権は、冒認出願であるから、無効となるから、Xの差止請求は認められない。

2.次に、廃棄請求につき、①方法の発明であり、これを使用したY製品については、「組成された物」に当たらない。また、②仮に当たるとしても、「際に」との文言上、上記差止請求が棄却される以上、附帯的な廃棄請求もまた棄却されるべき、と反論する。
 ア まず、①について。原則として、方法の発明による場合には、その方法を用いた製品は「組成された物」に当たらない。しかし、その使用が外形的に見て明らかといえる場合には、例外的に「組成された物」に当たる、と考える。
 イ 本件では、Y方法を使用し、その測定の結果、P含有量が基準値以上であることを確認した加工食品のみを豊富な食品である旨の表示があり、外形的に、Y方法が使用されたことが明らかといえる。ゆえに、「組成した物」に当たる。
 ウ もっとも、②につき、同条は、「際に」との文言を使用しており、これは差止請求に附帯したものであり、差止請求の認容を前提とする。ゆえに、本件でも、上記差止請求が棄却される以上、廃棄請求も棄却される。

設問2
(1)について
 XのYに対する補償金請求(65条1項)は認められるか。
 Yとしては、本件出願前からaのみを含む食品中の成分P含有量の測定方法が広く知られていたことは、「公然実施」(29条2項)に当たる以上、新規性を喪失しており、無効であると反論する事が考えられる。
 ア 特許法は、新たな技術を付与した者に特許権を付与するものであり(1条)、また、65条5項の規定ぶりも考慮すれば、「公然実施」に当たる場合には、補償金請求は認められない。
 イ そして、上記趣旨から、「公然実施」とは、不特定または多数人が知りうる状況で、発明が実施された場合をいうところ、aのみ…の測定方法は、広く知られていた以上、これに該当する。従って、「公然実施」に該当し、新規性を欠く以上、Xの補償金請求は認められない。Yは、以上のように反論する。

(2)について
 Xの補償金請求は認められるか。Yとしては、補正後に再度の「警告」がない以上、その要件を充足しない、と反論することが考えられる。
 ア 同条は、突然の補償金請求による不意打ちを防止し、もって、相手方を保護する趣旨の規定である。よて、補正の前後を通じて、技術的範囲に属する場合には、保護の必要がないため、かかる場合には、再度の警告は不要である、と考える。
 イ 本件では、本件当初発明は「aのみ」であり、本件発明は、「aとbを含む」ものである点で異なるところ、aのみでは新規性を欠いていた。そして、bの追加により顕著な短縮があることからすれば、その技術的意義は、「b」が付与された点にあり、かかる内容は、本件当初発明には示されていない。ゆえに、補正の前後を通じて、技術的範囲に属するとはいえず、再度の「警告」が必要であったといえる。
 ウ 以上により、Xの標記請求は、「警告」の要件を満たさない以上、認められない。

設問3
 Xは、Yに対し、製品Mの製造販売を差止請求できるか。
 ア Mは、本件発明の実施「にのみ」用いられる。そして、製造は「生産」に当たる。ゆえに、間接侵害が成立する(101条4号)。なお、販売は、「譲渡」に当たる。
 イ もっとも、直接侵害の成立が必要か。同条は、直接侵害を惹起せしめる行為を未然に防止する趣旨の規定である。ゆえに、間接侵害の前提として、直接侵害が成立していなければならない。
 ウ では、本件で直接侵害はあるか。Mは、Zに国内販売されている点で消尽しているのではないか。
 消尽とは、一度適法に流通に置かれた当該製品については、特許権の効力が及ばないとする法理論をいう。その趣旨は、市場の円滑な流通の保護、及び特許権者の二重の利得の防止にある。
 本件では、Mは、Zに適法に販売されているため、適法に消尽しているようにも思える。
 エ もっとも、本件特許権は、方法の発明であり、物を観念できない以上、方法の発明については消尽の前提を欠くといえないか。
 この点、方法の発明が使用された間接侵害品ある場合は、その「物」を観念できる。ゆえに、方法の発明であっても、間接侵害品ある場合には、消尽の適用を認めてよい。ゆえに、本件では、Mという「物」を観念できる以上、消尽の適用が認められる。従って、直接侵害が認められない以上、上記間接侵害も不成立となる。
 オ 以上によれば、Xの標記差止請求は認められない。

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