設問1
課題(1)について
1.Yの解釈について
 Yは、本件契約は、管轄について専属的合意があったと主張する。
 まず、本件契約は、XとYを「当事者」(11条1項)とし、「B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」との文言から、「第一審に限り」「合意」があるといえる。そしてこの合意のもと、本件契約に関する一切の紛争というかたちで、「一定の法律関係」(2項)について契約書があるから「書面」によってなされている。従って、管轄の合意についての要件を満たす。
 そして、Y社は、全国各地に支店を有しており、それぞれの支店で紛争があった場合においても、本店あるB県B市のB地裁でこれをひとまとめにして行う趣旨であることは、「一切の」との文言からも明らかである。ゆえに、B地裁を専属的管轄とする合意が成立している。Yは、以上のように主張する。
2.Xの立論
 これに対し、Xは、本件契約は、専属的合意ではなく、付加的合意であって、A地裁は排除されていない、と立論する。
 本件契約は、売買契約であり、「財産権上の訴え」(5条1号)に当たるから、その事物管轄は「義務履行地」であるA支店あるA地裁である。また、支店があるからその「所在地」もA県となる(同条5号)。そして、本件契約に、かかるA地裁を管轄から排除するとの文言はないし、「一切の」との表現から直ちにA地裁を排除したと読み取ることもできない。従って、本件契約は、A地裁を排除するものではない。Xは、以上のように立論する。
課題(2)について
 仮に、Yの解釈を前提とすると、原則としては、管轄違いとしてB地裁に移送されることになる(16条1項)。
 もっとも、例外的に、移送しないことが認められないか。法17条は、移送を認める規定であって、同条を直接適用することはできない(なお、合意管轄であるから20条1項かっこ書きにより適用除外はない)。しかし、その趣旨は、訴訟の遅滞を避け、当事者間の公平の確保にある。ゆえに、移送することがかえってこれに反する場合は、同条の類推適用を認め、移送しないことを認めるべきである。
 本件では、Xの居住地、Lの事務所、YのA支店及びA地裁はすべてA市中心部にある。一方で、B地裁あるB市中心部とは、距離約600km,時間にして約4時間かかってしまう。仮に、B地裁で訴訟活動を行うとなると、交通費等、金銭的負担もかかり、日程調整等も難しくなる。また、A支店の担当者もまた、証人尋問等で呼ばれることが考えられ、被告側にとってもむしろA地裁で行ったほうが便宜的である。
 以上からすれば、B地裁へと移送することは、かえって訴訟の遅延化を招き、むしろA地裁で審理を行うことが当事者の公平に資する。ゆえに、同条の類推適用により、本件訴訟はA地裁で審理されるべきである。

設問2
 ④の事実を認める陳述につき、裁判上の「自白」(179条)が成立するか。
1.自白制度の趣旨は、不要証効の範囲を確定し、もって争点を圧縮する点にある。かかる趣旨からすれば、自白とは、ア口頭弁論期日における、イ相手方の主張と一致する、ウ自己に不利益な、エ事実の陳述をいう。
ア 標記陳述は、第1回口頭弁論期日においてなされているからアを満たす。
イ そして、認めるという陳述は、Xの主張と一致しておりイも満たす。
ウ 自己に不利益な、とは、上記趣旨からすれば、相手方に証明責任ある場合をいう。
 本件の訴訟物は、履行遅滞による本件契約の解除に基づく原状回復義務の履行としての400万円の支払請求権(民法541条)である。ゆえに、原告Xが、履行遅滞の事実を請求原因として主張する必要がある。そして、④は本件事故が起きた事実を示すものであるが、これは本件仕様を有していなかったこと、ひいては、いまだ完全な履行がなされていないことを示すものであり、履行遅滞を基礎づけるものである。ゆえに、この事実は、YではなくXが主張立証すべきだから、自己に不利益といえ、ウも満たす。
エ 事実とは、仮に、間接事実や補助事実も含むとすると、証拠と同様の機能を有する以上、自由心証主義(247条)に反するおそれあることからすれば、主要事実に限定される。
 ④の事実は、上記のように、履行遅滞を基礎づける事実である。もっとも、本件事故が起きたことは、本件仕様を有していなかったという⑤の事実を推認させるものではあるが、かかる事実から直接的に標記請求権の存在を基礎づけるものではない。従って、間接事実にすぎないから、エを満たさない。
 以上によれば、「自白」に当たらず、不可撤回効は働かない。
2.もっとも、その後、Xが訴えの追加的変更をしている。そして、その訴訟物は、本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求としての100万円の支払請求権である(民法415条)。かかる訴訟物からすると、④の事実は、本件事故により下敷きとなった腕時計が損壊したとの事実、すなわち、「損害」の事実を直接推認させるものである。ゆえに、この訴訟物との関係では、主要事実となり、「自白」に該当し、不可撤回効が生じてしまうようにも思える。
3.では、Xが訴えの変更をした後にYが認否の撤回をした点が影響するか。仮に、従前の訴訟物との関係では、自白に当たらなかったにもかかわらず、訴えの変更後の訴訟物との関係では自白に当たるとすると、何ら手続保障なくして自白の撤回が認められないこととなってしまい、被告の保護に欠ける。ゆえに、何ら影響するものではなく、自白は成立していないものとして、Yは、④の事実を自由に撤回することができる。

設問3
 Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかを判断する際にどのような観点からどのような事項を考慮すべきか。
(1)法が、文書提出義務(220条柱書)を認める趣旨として、まず、真実発見の要請があげられ、かかる観点から考える必要がある。
 本件では、Tは、元Yの従業員として設計にも携わっており、設計上の無理があり、上司にこれを進言したが取り合えてもらえなかったとの事実がある。この事実は、本件訴訟においても、重要な事実であるから、真実発見のため、考慮すべき事項である。
(2)次に、業務の遂行や日常生活の障害とならないかという観点も重要である。同条4号ロ・ハはかかる趣旨の規定である。
 本件では、日記が公開された場合、Yに不利に働くものであり、これによって、その後のZの生活に何らかの支障がないかどうか考慮すべきである。
(3)また、所持者のプライバシーの観点も重要である。同条1号、2号、4号イ・二はかかる趣旨の反映であるといえる。
 本件日記は、Tが生前書いたもので現在は妻Zが保管している。そして、Zもプライバシーから証拠とし提供できないとしている。日記は通常人に見せることは予定しておらず、また、Zのこのような意思の尊重も必要である。ゆえに、このような事項を考慮すべきである。

*設問1 3枚目の3行目まで(23+23+3=49行分)
*設問2 5枚目の6行目まで(20+23+6=49行分)
*設問3 6枚目の7行目まで(16+7=23行分)